2017年10月27日金曜日
「怖いよー」と言えなかったパニック障害
薬で発作を止めるだけではなく、並行して「不安をちゃんと感じる」、「不安について語る」ことが不可欠だ。
その精神療法を行っていくのが根本的な治療である。
■「怖いよ!」と言えなかった頃
沙苗さんは、小さいときからずっと真面目な優等生であった。
大学生の時、初めてパニック発作をおこした。
一時は通学も難しいほどだったが、薬で発作はだいぶ軽くなった。
今は薬を飲みながら通学している。
しかし、発作が完全に消えたわけではない。
…
「そうですね。
ところでどうしてパニック障害になったのか考えたことがありますか?」
「えっ、…原因があるんですか?」
「…」
「普通はね、ずっと緊張して生きてきて、小さい子どもの頃に「怖いよ!とか、「助けて!」とか言ったことの無い子が、大きくなってパニック障害になるんですよ。
どうしてパニック障害になったのか考えたことがありますか?ずっと不安を我慢して緊張していたのが原因といえば、原因ですね。
沙苗さんの家庭環境について簡単に述べておこう。
家庭は裕福だった。
両親ともに穏やかで、何事についてもきちんとしている家庭だった。
しかし、少しその度が過ぎていたようだ。
家庭の中の緊張はいつも強かった。
母親はどこかいつもピリピリしていた。
その緊張は忙しい夫の仕事のせいであろうか。
祖父母との二世帯住宅が影響していたのか。
両親とも、目立って仲が悪いと言うことはなかったが、
母は父を遠ざけていたようだった。
「ずいぶん前に先生は、私は緊張の強い家庭で育ったようだとおっしゃっていましたね。
最初は言われて、ぜんぜん意味が分からなかったのですが、いろいろ思い出してきて、そうかなと思えてきました。
私って誰かに『こわいよー、たすけてー』って言ったこと、多分ないんですよね。」
「そうですね。誰かに、って言うか、小さいときは、普通は一番近くにいるお母さんにでしょうね。
あなたは言わなかったのかな?たぶん、真面目すぎたのかな? そういう子は言わないからね」
「そう、真面目すぎたんです」と沙苗さんは笑った。
「この間、母と父が、祖母の介護のことで話し合っていたんです。
けんかしているわけじゃないんですけど、母はすごくピリピリしていて、父は不機嫌そうでした。私はそれを聞いていて、フーッとめまいがして不安定な感覚になってしまいました。すごく嫌な気持ちになって『ああ、この感覚って小さいときからあったな』と思ったんです。私の我慢してきたことってこれだったのかと…、家の中の緊張がわかりました」
家の中が緊張していれば子どもは遠慮して不安を口にしないものだ。
両親の不仲を子どもは敏感に感じ取り不安に陥る。
しかし、それは口にはしない。
人が「怖いよ!」と言えるのはじつは安心したときである。
怖い目に遭ったときは、夢中で逃げる、緊張する、対処する。
そこから逃れて後、ほっとして「ああ、怖かった!」と言える。
家庭の中がずっと緊張していれば、子どもはずっと「怖いよ!」とはいえない。
成長して、少し緊張が緩んだ頃に「怖かった」と言えるのだが、
その言葉を知らない、言い方を知らないので、いきなりパニック発作が出る。
そして、「怖いよー」と言えると治っていく。
■不安を認めると不安が消える
不安という感情は
危険に対する敏感な予知情報である。
その人の人生でパニック障害た起こる時期にもまた意味がある。
不安発作は
「もう、いままでの生き方のままで緊張し続けてはいきていけない。
そろそろ緊張を和らげようよ。生き方を変えようよ、
と言うサインである」
このサインが出たということは
危機が少し去り、ちょっと安堵したときである。
発作発現の意味を考えずに
ただその症状を消そうとするだけでは
制限を続ける逆向きの治療になってしまう。
不安を抑えるのではなく「不安はあるんだ」と認識できると不安は小さくなる。
正確に認識できると、認識の制限が解除される。
認識の拡大が心を楽にする。
そして、不安を制限する小さい心からはなれる。
…
ある時、彼女はこういった。
「ちょっと後ろめたいけど、もう両親のことに首をつっこむのをやめた。
楽になりました。」
小さい頃から両親の間に入って夫婦仲をとりなしてきた自分の役割を終わりにしたのである。
心、身体を問わず「症状」の発現には意味がある。
お腹が痛いときに原因を調べずに
鎮痛剤を飲んでしまったら危険だ。
痛みの原因はガンなのか、胃炎なのか、必ず理由があるはずだからだ。
痛みは身体が発する、とても鋭敏で大切な情報である。
抑圧したり、制限してはならない
同じように精神科の心の症状にも意味がある。
不安には不安の意味があり、
鬱症状にはその原因がある。
身体の症状は
どこかで機能不全が起こっているという
警告信号であり、心の症状は制限された認識が限界を知らせている警告信号である。
その意味を正確に読み取り、対処できると
身体の機能は正常に戻り
心は広がる。
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