2013年9月5日木曜日

きみはいい子 中脇初枝 ポプラ社












ーー「うばすて山」より


ほんとのおかあさんをすきになれないんて。
おかあさんをだいきらいと思ってしまうなんて。
きっと、こんなにわるい子は、どこにもいないと思っていた。


「いいんだよ。きらいでも。」
「そんなにひどいおかあさんなら、きらいでいいんだよ。無理にすきになる必要はないんだよ。ひどいことをされたら、それがたとえおかあさんでも、中田にとってはひどいことなんだから。ひどいひとをすきになる必要はないんだよ」



わたしはそのときはじめて、おかあさんをきらいな自分をきらいになる必要がないことを知った。









ーー「サンタの来ない家」より


「おとうさんが言うんだ。五時までは家に帰ってくるなって。」

「こんなところにいたらかぜひくよ。先生が送っていくから。」

「だめだよ。おとうさん、すごく怒るから」

「そんなの、怒るほうがおかしいんだ。」

「違うよ」
「ぼくがわるいんだよ。ぼくがわるい子だから、おとうさんが怒るんだ。」

「なんでわるい子だと思うの。」

「だって、おとうさんが怒るから。」

「それは、おとうさんのほうがおかしいんじゃないかな」

「ママだって怒る。」

「ママもおかしいんだよ。」



「どうしたら、いい子になれるのかなあ」
「ぼく、わからないんだ。」















「神田さんは、わるい子じゃないよ」
「神田さんは、なんにもわるいことしてないよ。」

でも、ぼくが言ったんじゃだめだということを、ぼくは知っている。ぼくじゃなくて。

「神田さんは、いい子だよ」


神田さんの長いまつげから、大きな涙がぽたりと落ちた。
糸を引くように、ゆっくりと地面に落ちた。

神田さんの肩が震えていた。

ぼくが、抱きしめていいんだろうか。
本当は、ぼくではないだれかがすべきこと。
神田さんが本当に望んでいるのは、ぼくではない、誰か。
でも。
そのだれかから、どんなに望んでも、与えられないとしたら。













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ある種の人にとっては、ずーっと開けないようにしてきたドアが
開いてしまうスイッチとなりかねない一冊かと。

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